知能機械工学科
八房 智顯
教員紹介

プロフィール
- 【専門分野】
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○自動車工学
○燃焼工学
○超音速燃焼
- 【担当科目】
- 熱力学I/II 、 知能機械工学実験 、 総合ゼミナール 、 知能機械工学演習
- 【研究テーマ】
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1.マルチイオンプローブを用いた詳細燃焼計測技術の開発
2.火花点火機関におけるノッキング現象の研究
3.デトネーションの伝播機構の解明
- 【ひとこと】
エネルギー問題はこれからわれわれが直面する最も大きな問題の一つです。"Think globally, Act locally"身近なところから、問題解決の方法を探っていきましょう。
研究紹介
八房 智顯YATSUFUSA Tomoaki
工学部 知能機械工学科 教授
限られた資源の有効活⽤のため、
“燃焼”現象を正確に捉えなければならない。
PROLOGUE
地球に負荷をかける温室効果ガスを減らそう、と脱炭素化に向け世界が動き出しています。自動車の電動化はその最たるもので、多くの先進国が、2030年半ばまでにガソリンエンジン車の新規販売をゼロにする、と方針を示しています。やれやれ、これで脱炭素化が進んで一安心…かと思えば「そう簡単ではない」と八房先生は首を振ります。「新規販売車種が全て電動化されたとしても、既に走っているガソリンエンジン車がゼロになるわけではありません。“燃焼”や“エネルギー”について、私たちはもっと知る必要があるのです」と先生は言います。
“燃焼”は人間の生活や産業と、密接に関わっている。
ガソリンエンジン車は、ガソリンというエネルギーをエンジン(内燃機関)の中で燃焼させて動力を得ます。飛行機も同様です。また火力発電所ではエネルギーの燃焼により水蒸気を発生させ、電気を起こします。私たちは「燃焼」と深く結びついた生活を長く送ってきました。なのに、実は「燃焼」について、まだそれほどわかっているわけではないんです。
例えば、⾃動⾞のエンジン内で、どのような燃焼が起こっているのか調べるのは、とても⼤変です。⾦属で密閉された空間であるエンジンの中をのぞくことは、通常はできません。
自動車メーカーは「強化ガラスのような透明な材料で特殊なエンジンを製作して内部の燃焼を直接観察する」か「圧⼒センサをつけて燃焼圧⼒を調べることで燃焼の様⼦を推定する」のいずれかのやり方を用いています。ただ、どちらも計測できる内容に限りがあり、細かいところまで見ることができず、わからない部分が残ってしまっています。
自動車の電動化によって、内燃機関を搭載した車がどんどん減るのは事実です。だからと言って既存の内燃機関をほったらかしにしていいはずはなく、使う以上はより省エネルギーなエンジンにして、CO2排出量を少しでも減らせるよう努力しなければなりません。
また電動車でも、化石燃料を燃焼させて起こした電気を使えば、結局、二酸化炭素(CO2)を発生させることになります。CO2排出量をこれまで以上に減らすことを目指すなら、不明な点が多い“燃焼”の実態を明らかにできる、新しい燃焼計測技術が必要なのです。

という現象を可視化した計測技術を、
いろんな分野に応用していきます。
電気を通す、という性質に着目し、“燃焼”の様子を詳細に計測。
私が注目したのは、炎はごくわずかでも「電気を通す」という性質を持つ点です。
性質自体は古くから知られていたのですが、百万分の1秒の猛スピードで拡大する燃焼の状況を微弱な電流から測定するには、⾼速のデータ処理が必要で、活⽤できなかったのです。しかし電子チップとセンサの発達により、十分な計測ができるようになってきました。
以前はデータサンプルも限られていましたが、取れるデータもどんどん増えました。そのデータ処理を高速に行ったり、センサの取付方法を工夫するなどして燃焼の様子がかなり具体的に計測できるようになったんです。私の手法を用いると、ハイスピードカメラの100倍以上の速度で燃焼の状態を明らかにすることができます。
実績に興味を頂いた自動車メーカーと協働し、私の燃焼計測技術を実際のエンジンに応用する試みも始まりました。“燃焼”という、今まで見えなかったものを見えるようにして、環境負荷要因を減らすために活かしていければと考えています。
エネルギー分野を広くとらえ、適切な使い方を示唆していきたい。
炎の電流に着目したこの新たな燃焼計測技術は、⽕⼒発電所や焼却炉などのモニタリングといった、燃焼基礎研究分野の新たな計測⼿法としても活⽤できると期待しています。
さらには燃焼計測技術をベースに、エネルギー全般を見渡した研究に広げていきたいとも考えています。生活でも産業でも、エネルギーを必要としない活動はありません。そしてエネルギーを使う以上、より適切な方法であるべきです。燃焼に無駄が多いと、CO2や有害ガスを必要以上に排出し、エネルギーを浪費します。逆に燃焼が高効率だと、環境に与えるダメージを減らせます。
SDGsが掲げる「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」という目標の達成に寄与するためにも、エネルギー分野を広くとらえ、社会に適切な使い方を示唆していく。そうやってエネルギー問題・環境問題の解決に貢献していきます。