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広島工業大学

機械情報工学科

佐藤 裕樹

教員紹介

佐藤 裕樹SATOH Yuhki

工学部 機械情報工学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○材料物性
○照射損傷
○原子力材料
○電子顕微鏡
【担当科目】
材料力学 、 機械材料学 など
【研究テーマ】
1.金属材料の点欠陥集合体の動的挙動に関する研究
2.高エネルギー粒子照射を受けた材料の特性劣化に関する研究
3.計算機シミュレーションを用いた結晶欠陥のモデル化に関する研究
【ひとこと】

材料のミクロな組織や構造にはさまざまなものがあり、材料強度に著しく影響する場合もあります。その仕組みを解き明かし、材料開発に応用する研究を行っています。

研究紹介

佐藤 裕樹SATOH Yuhki

工学部 機械情報工学科 教授

固体の結晶に存在する“欠陥”が、
産業の発展に役立ってきた
PROLOGUE

理科で「分子が集まって規則正しく並んでおり、簡単に変形しないものが固体」と習ったことを覚えていますか?実際、金属などは、手で力を加えても簡単に曲がりません。しかし、ミクロな原子のレベルで見ると「規則正しく並んでいる」わけではなく、ところどころに「穴」が空いているらしいのです。「金属の“穴”をうまく利用することで、合金などの技術は発展してきました。その一方、穴の存在が、核融合など新たな技術を進める上での障害にもなっています」と佐藤先生は言います。

合金を作ったり、金属を変形させるのに“欠陥”が活躍

固体の場合、通常は原子が規則正しく並ぶ結晶構造になっています。しかしミクロのスケールで見ると、原子が欠落していたり、逆に原子が余計に存在している部分があります。原子の欠落したケースを「原子空孔」、原子が余分にあるケースを「格子間原子」と呼び、結晶構造内の欠陥とされます。
「欠陥があっては困るじゃないか」と感じるかもしれませんが、実は、工業はこの欠陥をうまく利用しているのです。例えば銅の表面にニッケルをくっつけます。異なる金属同士なので、普通は混ざりません。ところが700℃程度の熱を加えると、固体の状態なのに、両者が混ざり始めるのです。なぜかというと、穴の空いた原子空孔に別の場所から原子が移動してきて、新たに空いた穴にまた別の原子が移動して…ということを繰り返し、原子が拡散していくからです。異なる金属同士を組み合わせて合金を作れるのは、結晶欠陥のおかげと言えます。
もう少し複雑な「欠陥」と呼ばれるものもあります。金属は引っ張って伸ばしたり、叩いて薄くすることもできます。大きな力を加えると、原子がある面を境にして「ずれる」のです。これを塑性変形と呼びます。塑性変形が起こるのは、ずれた箇所に線状の欠陥(転位)が作用するからです。これにより、私たちは硬い金属の形状を変えることができるのです。

点欠陥のモデル。
左が原子空孔、右が格子間原子
原子空孔に原子が移動することで、
ニッケルと銅の原子が拡散します
欠陥(転位)によって塑性変形が起こります

性質のよくわからない“点欠陥クラスタ”が、核融合の障害に

点欠陥・線欠陥・面欠陥だけでなく、金属材料内にはまだまだ、複雑で性質のよくわからない欠陥があります。私は、中でも「点欠陥集合体(クラスタ)」を取り上げ、性質を明らかにしたいと研究しているのです。
点欠陥クラスタは、「核融合」炉内などで見られる現象です。原子力発電はウランの核分裂反応を利用していますが、放射性廃棄物など様々な問題があります。この代替技術として、水素を用いた核融合が研究されています。しかし多くの壁があり、核融合炉はまだ実現しそうもありません。その問題の一つが点欠陥クラスタなのです。
核融合炉内では、2億℃という非常に高いエネルギーによる核反応が起こっています。それによって発生した中性子が炉内の壁にぶつかり、壁を構成する原子をはじきとばしてしまいます。つまり、そこに無理やり点欠陥が生まれてしまうわけです。一つの中性子がぶつかったところに数千・数万の点欠陥が発生することがわかっています。そして、発生した点欠陥がどんどん集まってクラスタとなり、一辺の長さが50~100nm(ナノメートル)程度の、立体的空洞を作ってしまうのです。

高エネルギーの中性子が核融合炉の壁の
原子をはじきとばすことで、
点欠陥クラスタが発生
電子顕微鏡で見ると、
点欠陥クラスタは
こんな形状をしています

点欠陥クラスタのメカニズムを解明し、未来に貢献

ナノスケールの空洞とは言え、たくさんできると、炉の壁がもろくなって壊れてしまいます。短期間で炉が壊れてしまうようでは、とても使えません。高エネルギーの中性子照射で材料が損傷される(照射損傷)ことが原因なのはわかっているのですが、どのような条件でどういう風に点欠陥クラスタが起こるのか。私はシミュレーションと実験によって、メカニズムを解明しようとしています。
核融合の研究は、各国で連携して研究を進めようと協力体制がとられています。それほど大規模で費用もかかる、人類の未来にとって重要な研究なのです。そこに少しでも役立つ知見を提供していきたいと考えています。
また欠陥の研究は、他の様々な分野にも活かせます。半導体製造ではイオン注入というプロセスがありますが、そうした場面にも応用されています。「欠陥」があるからこそ技術は発展してきた、という点に、私はとても示唆深いものを感じます。欠点があるからこそ努力して進歩する、という意味では、人も材料も同じなのかもしれませんね。