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建築デザイン学科

萬屋 博喜

教員紹介

萬屋 博喜YOROZUYA Hiroyuki

環境学部 建築デザイン学科 准教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○哲学・倫理学
【担当科目】
HITリベラルアーツ 、 哲学A 、 広島学A 、 知へのいざない 、 専門ゼミナールA/B 、 デザインスタジオ
【研究テーマ】
1.行為と規範に関する哲学的研究
2.環境デザインに関する倫理学的研究
3.D・ヒュームの思想に関する哲学史的研究
【ひとこと】

ものごとをただ漠然と考えるのではなく、論理的・批判的に考えるための力を身に付けましょう。そのためには、普段から小説、映画、漫画といったさまざまなメディアに触れて、自分の思考を磨く訓練が必要となります。できる限り、考えるためのサポートをしますので、共に考え共に学びましょう。

研究紹介

萬屋 博喜YOROZUYA Hiroyuki

環境学部 建築デザイン学科 准教授

「常識・ルール」を見つめ直すことで、
建築の本来あるべき姿が浮き上がってくる
PROLOGUE

建築に興味がある人は、スマートで美しい建物や、派手で目立つものを手がけたい、と思うでしょう。多くの人が利用するものである以上、災害に負けない頑丈さ、通気性や日当たり、耐久性などにも目を配る必要があります。しかし、それだけで十分でしょうか。環境、自然、あるいは社会、都市との関係の中で建築を捉えるという視点も必要ではないですか。「建築はこういうもの」あるいは「建築はこうあるべき」という「常識・ルール」を、少し違った角度で、根本的に考え直してみると、本来あるべき姿が表れるかもしれない。萬屋先生はそう考え、「環境倫理」という立場から建築を考察しています。

パークマネジメントからフードロスまで、多彩なテーマを取りあげる

私のゼミで行った学生の研究をいくつか紹介します。
ある学生は「広島市のパークマネジメント」を対象に、環境倫理学的研究を行いました。パークマネジメントとは、行政が民間に公園管理を委託する制度のことで、ここでは平和記念公園を取り上げています。民間委託を進める際、建築的価値や、平和の象徴としての価値は真っ先に議論に挙がります。ところが、環境から見た時はどうか、人と平和記念公園の関係は本来どうあるべきか、といった検討はほとんどなされません。そこで、平和記念公園であまり考慮されていない観点を指摘したのです。
別の学生は、フードロス問題を対象としました。フードロスを取り上げる際、消費とリサイクルのあり方を中心とすることが一般的です。しかし彼女はそこだけでなく、生産者・加工者・流通者まで含めたフードシステム全体を捉えました。生産者の葛藤や、加工者・流通者の労働環境がフードロスにどう影響しているのか、といったことにまで考察を深めたのです。そして、フードシステムを「食育プログラム」として再構築することが、結果的にロス削減につながる、と提案しました。
いずれも、通常と違った角度から、本質に物事を考察したものです。これが環境倫理学の視点と言えます。

環境倫理の視点で、
学生は様々なテーマを取り上げています

常識や偏見から解き放たれ、本質を純粋に見つめ直す

私は哲学を専門にしています。哲学とは、物事を根源までさかのぼって考えてみよう、という学問のことです。「こうでないといけない」という常識や偏見、思い込みから解き放たれる、自由な思考が可能な学問といってもいいでしょう。
この哲学の思考スタイルを母体に、人間と人間以外のものの関係を見つめ直そう、と生まれたのが環境倫理学です。「人間以外のもの」なので、いわゆる自然環境の場合もありますが、生態系、人工物、社会、都市が対象となることもあります。
だから学生の研究は、多岐に分かれます。他には、NIMBY問題を扱った学生もいます。NIMBYとは「Not In My Back Yard」の略で、「公共的には必要だが、自分の近くに置いてほしくない」類の施設の建設に反対する住民の態度を指します。典型例が、ゴミ処理場です。建築面から見るとゴミ処理場は、特別な機能を持った公共施設の一つに過ぎません。しかしそれを実際に建てようとなった時、住宅街の近くであれば、住民から反対運動が起こるかもしれません。と言って、山の中だと「自然環境を守れ!」という声が上がりそうです。では、どうすれば良いのか。こういう時こそ、物事の本質を見つめ直す環境倫理学の視点・思考法が求められるのです。

いわゆる自然環境だけでなく、
AIなど先端技術を対象とすることもあります

何が正解か分からない…そんな時こそ、環境倫理的視点が示唆を与えてくれる

環境倫理学では、世界的な気候変動や地球温暖化、あるいは世代間倫理といったものも対象となります。しかし、私たちは広島に住んでいます。その点を踏まえ、学生には、グローバルな視点・思考法で、ローカルな問題に向き合おう、とアドバイスしています。
環境倫理学は、即効性のある学問ではありません。そもそも哲学は、100年~1000年という長いスパンで、人生の有り様や世界の実像を追究する学問です。今の問題にすぐ役立つ、というものではありません。
しかし、ほとんどの常識やルールは、時代とともに変わります。今の常識やルールが、10年後も通用するとは限りません。価値観が移ろい、何が正解か分からなくなる…そんな時こそ、偏見や固定観念から自由になれる哲学の思考法が活きてきます。常識やルールに縛られていては見えない根本が見えてくるのです。
学生には、環境倫理学という視点から建築を捉え直すことの大切さを理解して、社会に旅立ってほしいと思います。実践の現場で課題に直面した時、本質をとらえるという姿勢は、必ず有意義な示唆をもたらしてくれるでしょう。

街の魅力を環境倫理の視点で取り上げ、
ワークショップを自主開催した学生もいます