広島工業大学

  1. 大学紹介
  2. 学部・大学院
  3. キャンパスライフ
  4. 就職・資格
  5. イベント情報
  6. SNS一覧
  7. 施設紹介
  8. 2024年度以前入学生の学部・学科はこちら→

広島工業大学

電子情報工学科

鈴木 貴

教員紹介

鈴木 貴SUZUKI Takashi

工学部 電子情報工学科 教授

研究紹介

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○物理学
【担当科目】
基礎物理学 、 基礎物理学演習 、 物質科学 、 熱と波動 、 量子物理学 、 基礎電磁気学
【研究テーマ】
1.IT技術を利用した物理の学習教材開発: 物理現象を可視化、可触化、可聴化し、視覚障がい者も含めて誰もが仮想体験しながら物理(理科)を学べるユニバーサルな教材の開発
2.量子力学の基礎研究: ナノテクノロジーや量子コンピュータなど、電子情報分野で近年急速に重要性を増している量子力学の基礎的な研究
3.素粒子論の研究: ビッグバンに迫る宇宙最初期の解明に向けた、重力(時空)の量子化の数学的な構築に関する研究
【ひとこと】

私たちが体験できる自然現象は、実はほんのわずかです。自然界には人が想像すらできないような摩訶不思議な世界が広がっています。
現代の物理学は、そのような世界を理解することをめざしてきました。そして、いまでは、現代物理学が解き明かしたことを技術に応用していく時代が始まっています。
もし、君がこのようなことに関心をもち、学んでみたいと思ったら、それだけで大学に入学する価値と資格があります。
「なぜ」をたくさん持って大学に入学してください。そして、大学ではそれらの疑問を解決しながら、さらに多くの「なぜ」を増やしてください。それが大学で学ぶということです。

研究紹介

鈴木 貴SUZUKI Takashi

工学部 電子情報工学科 教授

目が見えない学習者のため、物理現象の「可触化・可聴化」システムを開発
PROLOGUE

キャッチボールで山なりのボールを投げると、投げた瞬間のボールは速く飛び、山なりの頂点に行くにつれてスピードがゆっくりになり、頂点を過ぎるとまたボールは加速して相手のミットに届きます。キャッチボールをやったことがある人なら、この放物運動は直感的に理解できるでしょう。ところが、視覚障がいを持つ学習者は、山なりに動くボールの軌道を見たことがないため、放物運動と言っても理解が容易ではありません。そうした視覚障がいを抱える学習者に物理現象を“体感”させたい、と模索を続けるのが鈴木先生です。

視覚障がい者にとって、物理現象のイメージは簡単でない

物はなぜ下に落ちるのか。下に落ちる時、スピードはどう変化するのか。ボールを相手に投げると、どんな軌道を描くのか。そういった動きや変化を観察することから、物理の学習はスタートする、と言っても過言ではありません。

しかし、視覚障がい者にとって、山なりに動くボールの軌道をイメージするのは簡単ではありません。「放物運動」という言葉は知っていても、それがどのような動きを示すのかわからないわけです。せっかく物理に興味を持っても、これでは先を学ぼうという意欲が喚起されません。

私自身、15年ほど前に病気で視覚を失いました。その頃から視覚障がい教育を研究する先生方と交流を持ち、盲学校に通う子どもたちに科学現象を体験させるイベントがあることを知りました。私も何度か参加したのですが、触覚・聴覚など他の感覚で科学現象を体感した子どもたちは、実に楽しそうなのです。教員を捕まえて「なぜ?」と積極的に質問する子もたくさんいました。彼らもまた、知的好奇心に溢れているのです。物理を指導する教員として、また視覚障がいを抱える一人として、そういった学習者の意欲に応えたいと感じました。そこで、視覚障がい者向け物理学習教材システムの構築に取り組んだのです。

力覚提示デバイスを使って、放物線の動きを追う

教材システムは、2つの要素で構成されます。一つは、音声や点字・点図などによって文章や数式、図版の内容を把握するテキスト。そしてもう一つは、様々な物理現象を、触覚や聴覚によって仮想体験するアプリケーションです。単にテキストを追いかけるだけでなく、物理現象のイメージを芽生えさせ、イメージ・言葉・数式のマルチモーダルな仕組みによって物理の本質を理解することを意図しています。

物理現象の仮想体験を実現するために用意したのが、3次元的な力覚の入出力を可能にする力覚提示デバイス(ハプティックデバイス)というものです。このデバイスにはスタイラスと呼ばれるペンが付いています。そしてアプリは、物体の動きを表現する数式をスタイラスの3次元的な動きとして再現するのです。例えば、放物運動を表わす数式を入力すると、スタイラスペンを握っていれば、手の触覚と運動感覚で放物運動が体験できる、というわけです。

実際にやってみると、スタイラスは放物運動と同じように動き、その動きを手で追うことはできました。しかし、「最初は速く、頂点部でゆっくり、そこからまた速く」という、物体が放物線を描く際に現れる微妙な速度の変化は、手の運動感覚だけでは認識しづらいようです。放物運動を物理現象として理解させるには、もうひと工夫が必要です。

3次元の動きを再現する力覚提示デバイス

物理が苦手な学習者全てに有効なシステム

そこで、スピード感を音の高低(音色)で表現することにしました。聴覚は触覚に比べれば敏感です。音の音色は周波数で決まるので、速い動きやゆっくりの動きを示す周波数の音をアプリで生成して再生すれば、物体のスピードを音で表現できるはずです。スタイラスペンで物体の動きを手で感じ、同時にその動きの音を耳で聞く。物体の動きを可触化・可聴化し、よりリアルに仮想体験させようと狙ったわけです。

しかし、これは思った以上に大変な作業でした。特に課題となったのが、仮想体験アプリの開発です。仮想現実上の物体の動きを力覚提示デバイスのスタイラスペンで再現し、さらに音を加えるようなアプリを開発するにはかなり複雑なシステム開発が必要です。現在は、困難を一つひとつクリアしながら、理想的な形に近づけているところです。

「物理現象を可触化・可聴化するシステム」は、単に視覚障がい者だけのものではありません。健常な視覚を持ちながら、「物理は苦手」と感じている学習者にも、イメージづくりにおいてこのシステムは有効です。さらに、地球と星の関係、光・電磁波といった目に見えない物理現象を理解するうえでも、可触化・可聴化によるシステムは有効なのではないでしょうか。

まだまだ改良の余地が多いシステムではありますが、これまでとは一味違った物理学習のツールの完成に向け着実に歩んでいきたいと思います。