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地球環境学科

小黒 剛成

教員紹介

小黒 剛成OGURO Yoshinari

環境学部 地球環境学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○リモートセンシング
○プログラミング
○環境情報解析 ほか
【担当科目】
リモートセンシング 、 リモートセンシング演習 、 プログラミング 、 測量情報処理実習 など
【研究テーマ】
1.人工衛星データを用いた地表面状態の解析に関する研究
【ひとこと】

長いようで短い大学生活、この自由な時間を有効に使ってください。

研究紹介

小黒 剛成OGURO Yoshinari

環境学部 地球環境学科 教授

リモートセンシングを利用すれば、
宇宙から地球のさまざまな現象が観測できる
PROLOGUE

いろんな店舗の入口などで、人に直接触れずに顔や手で体温を測定する装置をご覧になったことがあると思います。これは、人体から発せられる放射熱の強さ(放射輝度)を赤外線センサで感知し、放射輝度から温度に換算してディスプレイに表示しているのです。実はこれも「リモートセンシング」の一つ。小黒先生が携わるリモートセンシングはもう少しスケールが大きく、衛星を利用して地球のさまざまな情報を取得しています。地球環境を考える上で、リモートセンシングは欠かせない技術の一つです。

リモートセンシングとは?

「リモートセンシング」とは、離れた位置(リモート)から、さまざまなセンサ(観測機器)を用いて、計測(センシング)する技術のことです。リモートセンシングは使用するプラットホーム(機体)により、衛星リモートセンシング、航空機リモートセンシング、UAV(ドローン)リモートセンシングなどいろんな手法があります。
衛星リモートセンシングの一例として、日本の気象衛星ひまわり8号と米国の地球観測衛星ランドサット8号によるタイ王国の複合解析例を示します。ひまわりは地球全体(フルディスク)を観測できますが、細かい様子は観測できません。一方ランドサットは、一度に観測できる範囲が限られるものの、細かく観測できます。双方を活用することで、日本に居ながら、遠く離れたタイ王国の様子が観測できます。ちなみに、右側のランドサット8号で観測できる横幅は約185 kmです。
植生解析の一例として、ひまわり8号とランドサット8号による広域擬似カラー画像を示します。画像の赤い部分が植生を示しており、灰色の部分は市街地です。これを見ると、日本は植生に恵まれた地域であることが一目瞭然です。

気象衛星ひまわり8号(右)
と地球観測衛星得ランドサット8号(左)
©JMA/USGS

宇宙空間から地表の温度を測るには?

衛星リモートセンシングで地表面の温度観測もできるのですが、遠く離れた宇宙からの計測にはいろいろな問題があります。
まず、空気(大気)の影響です。天気の悪い日に遠くを眺めると景色が霞んで見えます。同じことが衛星からの観測でも起こるのです。ひまわりは赤道上空約3万6000km、ランドサットは地上約700kmと非常に離れた位置から計測しているので、大気による影響を補正する必要があります。
つぎに、地上の物体は自らさまざまな熱を放射していますが、物体内部の温度が全て物体の表面に伝わる訳ではありません。物体の内部と表面の温度の伝わり方を補正しなければなりません。さらに、波長によって計測される温度が変わることもあるので、ここでも補正が必要です。その他、風や建物の影などの影響も考慮しなければなりません。
衛星リモートセンシングによる地上の温度観測の例を示します。観測時刻は現地時間の10時半頃で、人が住むオアシスの温度は約30℃前後ですが、砂漠の温度は50 ℃を越えています。地表面温度が最高になる正午頃には更に温度が上がることが容易に想像できます。

ランドサット7号によるタクラマカン砂漠南部ホータンオアシスの地表面温度画像
©USGS/HIT
地表面の温度を実際に測定し、
衛星の観測データと比較する
といった実験も行っています

地表面温度以外にも色々なことが分かる?

海水の温度(正確には海表面温度)の計測もできます。一例として、広島周辺の海表面温度画像を示します。海水温を測る衛星にはさまざまなものがありますが、ランドサット8号は空間分解能100 mと非常に細かな計測ができます。瀬戸内海のような無数の小島が点在する場所では、空間分解能が粗いと海を測っているのか陸を測っているのか区別がつきません。観測時刻は日本時間の10時半頃ですが、海の温度は約25 ℃前後であることが分かります。衛星による温度観測の精度は約0.5 ℃と非常に正確です。
衛星に搭載された可視や近赤外のセンサのデータを組み合わせることで、牡蠣や真鯛の養殖に不可欠の栄養分の一つであるクロロフィル濃度を測ることもできます。測定原理はクロロフィル分析装置と同じで、太陽光に含まれる青い光による蛍光反射を計測します。ランドサット8号によるクロロフィル濃度画像によると、瀬戸内海のクロロフィル濃度の高さがわかります。
2021年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎先生は「大気・海洋・陸面結合モデルによる温暖化予測」を研究されてこられた方ですが、先生もかつて講演で「リモートセンシングのデータが益々重要になる」と仰っておられました。環境を考える上でとても大事なリモートセンシングに関する知見を学生と共有し、さらに高めていきたいと思います。

ランドサット8号による広島周辺の
海表面温度画像
©USGS/HIT
ランドサット8号による広島周辺の
クロロフィル画像
©USGS/HIT