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広島工業大学

食健康科学科

今井 章裕

教員紹介

今井 章裕IMAI Akihiro

環境学部 食健康科学科 准教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○植物生理学
○分子遺伝学
【担当科目】
生物化学I 、 植物生理学 、 植物育種学 、 植物工場論 、 食品生命科学実験II/III など
【研究テーマ】
1.栄養繁殖植物における不定芽形成過程の研究
2.シソ科植物の薬効作用についての研究
3.ハーブ腺毛の発生における光環境の影響
4.ポリアミン量を可視化する生体マーカーの開発
【ひとこと】

勇気を出してたくさんチャレンジしてください。苦しい経験や失敗して落ち込む気持ちこそが、みなさんを成長させるのです。

研究紹介

今井 章裕IMAI Akihiro

環境学部 食健康科学科 准教授

植物の枝や葉っぱを切ると、
なぜ切り⼝から根が⽣えてくる?
PROLOGUE

私たち動物の場合、転んですりむいた⽪膚の傷⼝は、⽪膚として再⽣されます。それまで⽪膚だった細胞が、次は筋⾁細胞に変わるといったことは、通常起こりません。
「しかし植物では、こうした不思議な現象はごく一般的に起きていることなんです」と語るのは今井先⽣。「例えば"挿し⽊"がそうです。⽊の枝を切って⼟にさしておくと、枝の切り⼝から根が出てきます。本来、機能の全く異なる枝から根が出てくるなんて、動物では考えられません」。そんな不思議な植物の世界に魅⼒を感じ、先⽣は研究を続けています。

⽣命の危機が、植物の「分化全能性」を刺激する。

2011年、京都大学の山中伸弥教授が「iPS細胞」の研究でノーベル賞を受賞したことは、ご存知の⼈も多いでしょう。動物の場合、分化して特定の機能を持った体細胞が、別の細胞に変わることは通常起こりません。⽪膚の細胞は、どうやっても⽪膚の細胞のまま、というのが常識的な考え方でした。ところがiPS細胞を作る技術が発見されたことによって、⼀度⽪膚や筋⾁の細胞になったものをリセットして幹細胞と呼ばれる状態に戻し、全く別の細胞に変更できてしまうのです。
「様々な細胞に変化できる能⼒」のことを分化全能性と⾔います。実を⾔うと植物の世界では、分化全能性を持つ細胞は全く珍しくなく、個体の再生は自然界でありふれた現象なのです。例えばサボテンの⼦株を折って植えておくと、やがて根が⽣えてきます。切り⼝にある細胞が、根の細胞として⽣まれ変わったのです。挿し⽊の場合も同様で、切られた枝(茎)の細胞が、根の細胞に変わったわけです。本来、葉や枝と根は全く異なる種類の細胞です。しかし葉や枝が切られてしまうと、根を持っていないため、養分を吸い上げられません。そんな危機に瀕した個体が⽣命を維持するため、⼀部の細胞を根として再⽣した、と考えることができます。

写真A。コダカラソウ。
葉っぱの間から次々に芽が出てきて、
土に落ちると根を伸ばし、
新たな株として成長します。

葉っぱの先から、次々に新たな「芽」を出すコダカラソウ。

写真Aはコダカラソウという多⾁植物です。葉っぱのふちに注目すると、細かな凹凸があるのですが、そのへこんだ部分から⼩さな何かが出ています。実はこれ、⼀つひとつが芽なのです。芽の下側から伸びる⽩い糸状の器官は根です。この葉っぱのふちにできた芽がポロッと落ち、地面の土に根付くことで新たな株が増えていくのです。この新たな株は、元の株と親子の関係ではないんです。遺伝的に完全に同一の、いわゆる「クローン個体」の関係です。コダカラソウは、ごく自然に「クローン個体」を量産して個体を増やすことができてしまうのです。

神経細胞を持たない植物が、どうやって⽣命の危機を察知する?

キクの研究も⾏っています。キクは日本人にとってとてもなじみ深い植物で、お供え花や観賞用としても利用されています。食べることのできる食用ギクというのもあります。実はキクもまた再生能力の高い植物なのです。農家の方がキクを栽培する際には、春先に親株からたくさん伸びてくる芽を摘んで土に挿します。これを挿し芽と呼びます。しばらく育てるとこの茎の下の方から根が伸びてきて、新しい個体として育っていくのです。
摘み取られた芽は、生存の危険を察知して新たに「根」という器官を作り出したようにみえます。この過程には植物ホルモンであるオーキシンという分子が深く関与していると考えられています。
農業をやっている家に育った私にとって、植物の不思議は常に身近にありました。例えばニンジンだと、種から芽が出ます。しかしジャガイモの場合、種芋を植えることで芽が出ます。種から⽣まれたニンジンは、親世代から⾒て“⼦供”ですが、種芋から⽣まれるジャガイモは“クローン”。なぜ植物によって植え付け⽅が違うのか?と⼩さい頃から疑問に思っていました。そんなきっかけから植物の研究を始めることになったのです。
私の研究は将来的に、食用作物や園芸作物の繁殖技術の応用につながると期待しています。どのような農作物からも、枝や葉っぱから簡単に効率よくクローン個体を増やすことができれば、農家の方はより簡単に同じ品質の農作物を安定して収穫できるはずです。食料の安定確保や持続可能な農業の推進、というSDGsの観点からも農業生産能力の向上は重要な課題です。様々な研究を進め、植物の再生の仕組みを解明していきたいですね。

キクの研究も行っています。
再生能力の高さに注目しています。