地球環境学科
猪股 雅美
教員紹介

プロフィール
- 【専門分野】
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○災害地質
○防災教育
- 【担当科目】
- 地圏の科学 、 地圏の災害 、 地盤と地震
- 【研究テーマ】
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1.山城跡の斜面災害リスクを定量的に評価する手法の開発
2.拡張現実を用いた防災教育手法の開発
3.自然災害伝承碑を活用した防災教育活動
- 【ひとこと】
「地質が文明を決める」とも言われています。歴史や文化、自然災害に影響する地質を一緒に学びましょう。そして、学びも遊びも思いっきりできる大学生活を過ごしましょう。
研究紹介
猪股 雅美INOMATA Masami
環境学部 地球環境学科 助教
中世の山城跡が、土砂災害をもたらす要因の一つになっている
PROLOGUE
夏になると、毎年のように発生する豪雨災害。大量の雨に続いて起こるのが土砂災害で、住宅街にまで流れ込んで甚大な被害をもたらすこともあります。こうした土砂災害の要因の一つとなっているのが、鎌倉時代から戦国時代にかけて盛んに建設された中世の「山城(やまじろ)」跡ではないか、と考え、メカニズム解明に取り組んでいるのが猪股先生です。
人工的な地形改変の跡に、水が集まりやすくなる
中世に築かれた城跡は、全国でおよそ4万か所以上あるといわれています。広島県内だけでもその数は1000を超えます。特に戦の拠点として山頂に築かれた山城や陣は、山頂を削って土地を平らにしたり、敵の侵入を防ぐために数メートルもの深い空堀(からぼり)を掘ったりするなど、人工的な地形改変によってつくられました。こうしてつくられた地形の跡は、城が失われたあとも長く残ります。たとえ草木が生い茂っても、数百年の間に地形が自然の状態へ戻るわけではありません。人の手が加わった地形は、場合によっては土砂災害の発生に影響を及ぼすことがあります。
自然の山に降った雨は、地表を流れる水と地中を通る水に分かれながら、最終的に川へと集まります。これらの水が集まる範囲を「集水域」といい、地形によって決まります。地形改変が行われると、流路や集水域の形も変化することがあります。山城跡の斜面では、空堀に水が集まりやすくなり、その結果として斜面の崩壊が生じるケースがあるのです。
私が以前、東広島市の防災マップづくりに関わった際、住民の方々が、土砂災害時の避難経路として、敢えて遠回りになるルートを選んでいました。「こちらの道を行った方が近くないですか?」と尋ねると、「昔から、あの道の斜面は水が出るから、大雨のときは通るなと言い伝えられている」と答えられたのです。斜面上方には山城跡がありました。そこで調べてみると、ほかの山城跡でも同じように、昔から大雨の時に斜面が崩れていたことがわかりました。2018年の西日本豪雨では、東広島市内の山城跡の50ヶ所以上で土砂災害が発生していたこともわかりました。
山城跡の斜面では、自然斜面に比べて、繰りかえし土砂災害が発生している
中世の山城跡の位置を文献で調査して座標を入力、GIS(地理情報システム)を使い、実際の斜面崩壊と重ね合わせます。すると山城のあった位置で斜面崩壊が発生したかどうかわかります。こうして土砂災害の起こった山城跡が特定できたら、実際に現地に行ってみます。
現地に着いても、手当たり次第に掘るわけにはいきません。史跡は文化財指定を受けているものもあります。管理する自治体の教育委員会や土地の所有者に許可を取ったり、史跡を傷つけないように配慮しながら、限られた分量の土や岩を採取するのです。分析の結果、空堀内の土壌は密度が小さく、水を通しやすいことが判明しました。また、水分の多い環境を好む植物が多く見られるという特徴もありました。こうした環境条件が重なり、山城跡の下部にある斜面では、自然斜面よりも短期間に繰り返し土砂災害が発生していることが明らかになったのです。
今は、山城跡の災害と地質との関係を調べています。広島県に広く分布する花崗岩地域の調査はほとんどやり終えたので、岡山県など多様な地質が分布する地域に調査対象を広げているところです。地質が変われば被害の状況も異なるはずです。様々な地域に調査を展開し、優れた防災計画に貢献できるデータを提供しようと思います。
ARを活用した防災教育についても取り組み中
AR(拡張現実)の技術を防災教育に取り入れ、災害のしくみやリスクを分かりやすく伝える取り組みも進めています。
一つ目は「AR砂場」を使った防災教育です。白い砂の上にARで山や川の地形を投影し、砂を動かすと投影された地形も連動して変化します。仮想の雨を降らせることもでき、地形によってどのような災害が起こりやすいかを視覚的に理解できます。小・中学生はもちろん、保育園や幼稚園の子どもたちにも、危険な場所を直感的に伝えられるため、防災意識の向上につながっています。現在、学生たちと新しい機材での開発を計画しています。対象年齢などに合わせたプログラムを作り、高齢者の方や地域の外国人住民の防災啓発への活用も検討しています。
二つ目は、スマートフォンを用いた「ウェブAR」による災害記録の表示です。スマホをかざすと、その場所で過去に発生した土砂災害の映像が重ねて表示される仕組みを開発しています。アプリをインストールする必要がなく、手軽に利用できるのが特徴です。
こうした技術を通じて、地域の防災意識を高めることをめざしています。