広島工業大学

  1. 大学紹介
  2. 学部・大学院
  3. キャンパスライフ
  4. 就職・資格
  5. イベント情報
  6. SNS一覧
  7. 施設紹介
  8. 2024年度以前入学生の学部・学科はこちら→

広島工業大学

食健康科学科

菊地原 洋平

教員紹介

菊地原 洋平KIKUCHIHARA Yohei

環境学部 食健康科学科 准教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○科学技術史
【担当科目】
歴史学A/B 、 HITリベラルアーツ 、 社会実践科目 など
【研究テーマ】
1.生物調査・フィールドワークの歴史
2.情報や知識を保存・伝達する技術の文化論
3.科学と表現方法:図・表・記号 など
【ひとこと】

講義・実習その他、大学生活におけるさまざまな活動を通して、私たちが暮らす世界には多様なものの見方や考え方があることを学びましょう。

研究紹介

菊地原 洋平KIKUCHIHARA Yohei

環境学部 食健康科学科 准教授

科学の歴史、時代や社会との関わりを知ることが、
次代の科学の出発点になる
PROLOGUE

人間は、科学によって日常を発展させてきました。「身の回りにあるものをもっと便利にしたい」「今はできないことをいつか実現したい」あるいは「地球や宇宙、自然や生命の謎を解き明かしたい」と希求する科学者の情熱が、人間の文明を築く基礎になっているといっても過言ではないでしょう。そういった、科学と技術の歴史に焦点をあてて研究しているのが菊地原先生です。「現在の科学が、過去の科学者たちのどんな思いや創意工夫の上に成り立っているか、また当時の時代背景・社会情勢が科学にどういった影響を及ぼしたか知ることは、研究者にとってとても大事です」と先生は語ります。

科学的思考は、古代ギリシアの時代にはじまった

今でいう科学的思考のはじまりを顧みると、古代ギリシアの哲学者アリストテレスが活躍した時代まで遡ることができると考えられます。2400年も前の人ですが、彼が形成した学問の流れは、その後アラビアやヨーロッパを経て、世界の科学に強い影響を及ぼしていました。
私は、特に博物学の歴史を研究しているのですが、その分野にもアリストテレスの業績は色濃く残っています。例えば生物学の分野でみると、彼は当時、すでにクジラを魚類とは別のグループとして認識していました。またさまざまな動物の運動メカニズムにも注目するなど、今につながる科学的アプローチの原型をつくったといえます。
ただ生物学においては、アリストテレス以降、右肩上がりで発展したわけではなく、長い停滞の時期がありました。現実の生物と神話や伝説に登場する生物が一緒くたにされ紹介・研究されるという厄介な(同時に興味深い)状況に陥ってしまったのです。「象は理知的だ」「ダチョウは愚かだ」など、今の生物学としてはナンセンスな話が大真面目に議論されたりもしました。これは、寓話を用いて人々に教えを説いていた宗教の影響も多分にあったかもしれません。このように、科学の発展は時代背景や社会情勢と密接に関連しているのです。

古書などを活用しながら、
当時の科学の視点や考え方を学びます

「観察」「調査」という手法を得て、科学はさらに発展した

科学の源流が古代ギリシアだとすると、現代科学の基盤が誕生したのは16~17世紀、すなわちルネッサンス以降のヨーロッパとされ、一般的には「科学革命」と呼ばれます。象徴的なのが、コペルニクスの地動説です。16世紀半ば、彼は数学によって天体の軌道を計算し、「地球が太陽の周りを回っている」と提唱しました。数学を用いて科学を捉える手法はガリレオなど後に続く科学者に影響を与え、ニュートンの偉大な業績へと結実しました。
同じ頃、「観察」という手法を採り入れる科学者が増えていきました。1543年、ヴェサリウスは『人体の構造について』という本を発表します。これは、彼が実際に解剖して身体のなかの構造を解きあかした医学書です。以前は動物でも植物でも、過去の書物を精読・解釈することが自然研究のあり方とされ、対象物を実際に観察する科学者はまれでした。しかし「観察によって知識を得る」という手法が浸透したことで、経験にもとづく科学の方法が確立されていきます。
とはいっても、切り替えはそう簡単ではなく、16世紀では観察によって確認された知見と想像上の生物が一緒くたに載せられた書物なども多々ありました。そこで、これら未知の生物が実在するのかどうか、現地に行って確かめたいと考える科学者も登場してきます。これがフィールドワークの原型で、18世紀頃にはじまります。

実際の植物を観察して描いた博物学の本。
植物の一生を一枚の絵で描いています
顕微鏡や望遠鏡の誕生も
科学の発展に貢献しました

科学が国家的思惑と結びつくと、負の遺産を生む場合もある

現地調査は、実在の生物と想像上の生物をふるいにかけるのに貢献しました。ダーウィンもそうやってフィールドワークに出た博物学者の一人で、彼の観察・調査が進化論にたどり着いたのはご承知の通りです。
ただし、純粋な知的探究心のみで現地調査が盛んになったわけではありません。時代は帝国主義が台頭する頃で、西洋の国々にはアジアやアフリカを植民地として支配しようという目的があり、現地の生物・鉱物資源を知る必要がありました。そうした国家(または企業の)の思惑と、科学者の探究心が結びついたのです。これにより科学は発展したものの、現地の貴重な生物や鉱物が、根こそぎ持っていかれました。科学が社会情勢や国家的思惑と結びつくと、負の遺産をもたらす危険もあることを、科学史は教えてくれます。
一方、荒唐無稽な研究が科学の発展につながる例もあります。代表例は「錬金術」です。金を生み出すことに成功した者は一人もいませんが、その過程で実験方法が発達し、植物の薬効成分抽出などが可能になりました。
歴史を知ることが、新たな業績の出発点になります。学生のみなさんには、ぜひ科学者たちが積み重ねてきた努力に注目してほしいと思います。

科学技術のあり方や、
その国家との結びつきを学ぶため、
こうしたDVDを活用することもあります