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食品生命科学科

杉山 峰崇

教員紹介

杉山 峰崇SUGIYAMA Minetaka

生命学部 食品生命科学科 教授

研究者情報

プロフィール

【専門分野】
○酵母遺伝学
○醸造・発酵食品学
○発酵工学
【担当科目】
発酵食品学 、 専門ゼミナール 、 生命倫理 、 生物化学III 、 食品生命科学実験I 、 応用微生物学 、 HIT基礎実践A/B/C/D 、 HIT応用実践A/B/C/D
【研究テーマ】
1.美味しいお酒を作る新規醸造酵母の開発とお酒造りの新展開
2.美味しい酵母エキスパウダーの開発
3.真核細胞のモデルである酵母を用いた生命現象の分子メカニズムの解明
4.増殖速度・ストレス耐性・発酵能力が飛躍的に向上した酵母の分子育種とそのメカニズム解明及び発酵生産への応用
5.酵母の細胞記憶の書換え技術の開発と醸造・発酵食品生産への応用
【ひとこと】

考えを行動に移すことによって自分の環境をより良いものに作り変える「現実創造力」をぜひ身に付けて下さい。「天は自ら助くる(行動する)者を助く」です。また、変化することを恐れず、「常に変化し続ける力」を身につけて下さい。急速な時代の変化に取り残されないよう、「常により良いものを求めて革新を引き起こす姿勢」を大事にして下さい。当研究室では、より豊かな人間社会の構築に貢献するべく、日本が得意とする発酵技術を基盤にして教育・研究・開発を進めています。お酒造り、食品、発酵、微生物、ゲノム改変・編集などに興味がある人は、ぜひ一緒に世界初の研究・開発成果を創出して、社会に貢献し革新をもたらすという醍醐味を味わいましょう!

研究紹介

杉山 峰崇SUGIYAMA Minetaka

生命学部 食品生命科学科 教授

“究極の細胞”である酵母の可能性を追究し、
食品と生命の進化に貢献する
PROLOGUE

日本酒やビール、ワイン、味噌や醤油、キムチ、チーズ、そしてパン。これらの食品を作るのに欠かせないものと言えば…そう!「酵母」です。人間は有史以来、身の回りに存在する酵母を、お酒や発酵食品づくりに利用してきました。それほど付き合いの長い存在ですが、「実はまだまだ多くの可能性が秘められている」と語るのが杉山先生。「食品づくりでも、生命科学でも、酵母は重要な存在。まさに“究極の細胞”なのです」と先生は言います。

酵母によって、おいしい!を醸し出す

古来よりお酒やパンなど発酵食品の製造に使われてきた酵母は、安全性が確立された微生物です。私はこの酵母が持つさまざまな機能を改良し、おいしいもの造りに利用したいと考え研究を進めています。
例えば日本酒の吟醸酒。吟醸酒は酵母が作り出すカプロン酸エチルや酢酸イソアミルといった物質を含んでおり、フルーティーな香りを醸し出しています。この香りを多く作り出すには、原料のお米を徹底的に削る必要があり、ものによっては7割も削ってしまいます。しかし、酵母がいい香りをもっと作ることができれば、お米を7割も削らずにすむかもしれません。その分、ロスが減り、コストが抑えられます。食品ロスを防ぐというSDGsの理念にもかない、それでいて芳醇な香りのお酒ができるわけです。
もちろん簡単ではありません。これまでに、DNAの突然変異による遺伝子レベルで改変された酵母株が開発されていますが、私たちは独自開発した技術を駆使して、より大きなゲノムレベルで酵母を操作し、もっとおいしいお酒造りに取り組んでいます。
ちなみに広島工大は、文部科学省が推進するナショナルバイオリソースプロジェクト酵母に参画しており、世界中から集めた研究用の酵母株やDNAクローン約3万点をストックし国内外に提供しています。この分野では日本で一番大きく、世界でも3本の指に入るバイオリソースセンターであることから、広島工大は国内だけでなく国際的にも大きく貢献しています。

古来より利用されてきた酵母ですが、
重要な機能の分子メカニズムは
わからない点も多い。
そのメカニズム解明を通じて、
醸造・発酵生産や生命科学の進展に
貢献したいのです。

うまみ成分、バイオエタノールや乳酸の発酵生産…多面的に酵母を研究

酵母から抽出されたエキスは、食品に風味や栄養を付加する天然調味料として使われています。近年の消費者のライフスタイルや天然素材への嗜好の変化から、動物に由来しないということもあり、酵母エキスに対するニーズが世界的に大きく高まっています。そこで、食材のおいしさをアップさせるうまみ増強効果を持つ酵母エキスの開発にも取り組んでいます。
バイオエタノールや化合物生産にも酵母が利用されています。多くの場合、バイオエタノールはトウモロコシなど可食資源から酵母による発酵を経て生産されています。しかし、飢餓で苦しむ国もある中、食料として利用できるトウモロコシを使用するのは好ましくありません。そこで、食料と競合しない雑草や廃木材などの廃棄資源からエタノールを生産する研究が盛んに行われています。実は、酵母はDNA組換えが得意な生き物なのです。そこで、繊維質などを分解する酵素遺伝子を酵母に取り込ませ、廃棄資源からエタノールを作り出そうというわけです。同様にDNA組換えにより、酵母に乳酸を多量に作らせることも可能です。酵母は、元来、他の微生物と比べて乳酸など有機酸に強い耐性を示すので、乳酸を発酵生産するのにとても適しているのです。できた乳酸は、環境負荷の少ない生分解性ポリ乳酸プラスチックの原料として利用できます。私たちは、これらの研究にも力を入れています。

酵母やDNAに関する研究を行うための
最新設備が整っています。

真核細胞のモデルである酵母を用いて生命科学分野に貢献する成果を

酵母は、生命科学研究でも大活躍しています。2016年にノーベル生理学・ 医学賞を受賞された大隅良典先生の研究成果も酵母を使って得られたものです。酵母細胞はヒトの細胞と同じ真核細胞なので、生命科学研究では真核細胞のモデルとして利用されています。
前述のバイオエタノールや乳酸の発酵生産とも関連するのですが、エタノールや乳酸の生産環境は、酵母にとってもとても過酷な条件下であり、エタノールや乳酸を作り過ぎるとそれらがストレスとなり酵母自身がダメージを受けてしまいます。酵母細胞がこれらのストレスによってどのようなダメージを受け、それらのストレスへどのように適応しようとするのかの詳しい分子メカニズムはわかっていません。そのような分子メカニズムの詳細を解明することができれば、生命科学分野の新発見につながることが期待されます。また、その裏に隠された細胞が長い年月をかけて試行錯誤し完成させたストレス適応戦略のロジックを解読することができれば、ヒトを含む高等動植物のストレス軽減や寿命延長にも貢献できる可能性があります。さらに、酵母のストレス耐性能力を引き上げることも可能となり、発酵生産の改良にも応用可能となります。
我々は、基礎・応用の両面から酵母を用いて研究を進め、持続可能で豊かな人類社会の構築に貢献するさまざまな成果を生み出していきたいと考えています。

最新設備を利用して研究を進めていますが、
培養シャーレから菌株を取り出す作業では
爪楊枝が大活躍しています。